雨の島

小さなボートを漕いで、小さな島へ。海岸にこぎつけるのと同時に雨が降りだした。風のない午後、雨は不思議なほど音を立てず、無数の糸の束のように空から真っ直ぐ降り注ぎ、景色を茫漠とさせた。

髪の毛も衣服も雨に濡れ、でも濡れたままにしながら、彼は森に入った。鳥たちがどこか喜ぶような高い鳴き声をあげながら、すばしっこく飛び回っている。そして彼は森の奥にあるお気に入りの湖へ。鳥の鳴き声がひっきりなしに響いていたが、その場所は普段より静謐な印象があった。普段なら金属のように凪いだ湖面は雨粒のために乱れている。

彼はほとりにたたずみ、時間について思った。同じような雨が太古の昔から何度となくこの島に、この湖の上に降り注いだのに違いない。そんな連綿とした膨大な時間の流れについて思うとき、身体の内奥で何か熱いものが溶けてその温かみが全身に広がるような感覚を覚える。その感覚は深い安堵に似ていた。