旅立ちの日

その日は雪だった。飛行機は予定通りには飛び立たず、一時間ほど遅れてようやく搭乗のアナウンスがあった。
今日を最後に僕はこの土地を去る。そんなに悪い気分ではなかった。心細くて、でも同時にかすかな期待に胸を震わせている、この気分。この先雪を見るたびに、この気分を思い出すだろうという気がする。
新しい土地はここからはるかに遠く、そこではおそらくめったに雪など降らない。

見送りに来たのは一人だけだった。僕もその相手の女性もお互いに、言葉がすくなかった。髪が伸びたみたいね、と彼女は言って、僕はそれに何か答えて、覚えているのはそれだけ。手紙を書くよ、と最後に僕は告げ、搭乗口へ向かう。
ことによると僕は、もう二度とこの土地に帰ってこないかもしれない。彼女とは今生の別れになりそうな予感を抱いている。彼女も同じことを考えていただろうか、だからあんなに悲しそうな顔をしていたのか。飛行機へ向かって歩く途中、空港の展望台に彼女の姿を認めた。背の高い彼女のシルエットは特徴的で、遠くからでもすぐにわかる。
僕は手を振った。彼女は無反応だった。もしかしたら違う人だったかもしれない。そして雪が降っていて、彼女の姿を覆い隠してしまった。