その日の後悔


乗り込んだタクシーの運転手は、どういうわけかひどく不機嫌で、信号待ちで車が停まっている間など、意味もなく両手でハンドルをバンバンと強く叩いたりした。そして走り出すとすごいスピードを出す。そのため一般の自動車やバスなどから、何度もクラクションを鳴らされていた。歩行者までもが迷惑そうにタクシーを睨んだ。
車内に会話はなかった。運転手がときどき、ミラー越しにこちらを睨みつける視線を感じていたが、僕はそれを見ないようにしながら、ひたすら窓の外を眺めていた。

そう、確かに荒っぽい運転ではあったが、僕は時間に遅れそうになって急いでいたので、むしろ助かった。そしてなんとか予定時刻のぎりぎり直前に目的地に到着することができた。運転手は最後まで苛立っていて、お釣りを返すとき、何か唸り声のような声を発したが、僕はそれに対して特に何も言わずに、黙ってタクシーを降りた。車はまたすごい勢いで来た道を引き返していった。

あとでふと思ったことは、あの運転手にちゃんとお礼を言っておけばよかった。僕は急いでほしいと伝えたわけでもないのに、彼はあんなに飛ばしてくれたのだ。そのことについて、過剰なほど礼儀正しく、うっとうしいほど丁寧な口ぶりで、お礼を伝えるべきだった。そのときの彼の反応を見てみたかった気がする。そのことはその日の後悔である。