孤独なタイムスリップ恐竜

檻のように連なる樹木の向こうに浮かぶ巨大なシルエット。その姿はあらゆる緑が支配する森の中にあって、周囲からくっきりと際立つ砂の色。一頭の恐竜が首を思い切り伸ばしながら、まるであたりを見回すみたいにしている。でもその長い首をもってしても森の木々より高く頭を持ち上げることはできない。木々は恐竜の頭上を厚くふさいでしまっている。

それは地球のどこかにある不思議な森。時空を超えてさまざまな人や生き物が漂着する。その恐竜もまた、遥かな白亜紀からおよそ1億年の時を超えて何の前触れもなく現代に放り込まれた。孤独なタイムスリップ恐竜はのそのそ歩きながら、木にぶら下がった果実を齧りとっている。ほかに動くものは何もない。

空は次第に白みつつあった。夜の名残は光と色にどんどん侵されてゆき、そしてやがて地平線の彼方から、恐竜にとっても親しいあの熱い球体が浮かび上がろうとするとき、巨大な体躯が占めていた森の空間の一角は突然にして空白になった。まるでどこかで見えないスイッチが押されたみたいに、一瞬にして滅びた生き物は再びこの森から姿を消した。おそらくはまた別の時間の中へ送り込まれたのだろう。