きれいな入り江 (Beautiful Bay)

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岩礁に丸く取り囲まれたその小さな入り江は、静かで落ち着ける場所だった。僕は水面に仰向けに浮かびながら、午後じゅうずっと空を見ていた。空を流れてゆく雲の形や色合いは、一瞬ごとに変化していた。雲がそんなに激しく変容を繰り返すものだとは知らなかった。こんなに長い時間空を見上げなければきっとそのことには気づけなかった。

夕方になると僕は海からあがり、砂浜に座って沈む夕陽を眺めた。今日という日は終わりつつある。それは昨日とほとんど見分けのつかない、何事もない平和な一日だった。おそらく明日も似たような一日がまた繰り返されるのだろう。僕はそのことにひどくうんざりしている。その一方で、去り行く一日を惜しむ気持ちもないわけではなかった。

夕陽の最後の一滴がついえる直前、どこからか声が聞こえた。僕はおかしいと思った。この島には今、僕のほかには誰もいないはずなのに。でもその声に聞き覚えがある気がして、僕は立ち上がり、声がしたほうへ向けて歩き出していた。