踊ってるみたいな気分

地平線がギザギザ。 視界がゆらぎ、地平線が真っ直ぐにならない。 波打つ地平線の切れ目から、野原を埋め尽くす緑色が噴水のように吹きだしていた。それは垂直に逆方向の滝のように伸びて空に達し雲を貫いている。それだけでない。緑は時々灰色になり、また黒くなったり、血のような赤に染まる。 空中には細かな銀色や黄色のきらめく粉が舞っている。まるで空気の組成を目に見るかのようだった。雲に似た、しかし雲とは明らかに異なる何か異常で巨大な物体がゆっくりと空を横切っていった。

踊っているみたいだな、と彼は独り言を言った。最初は苦しさしかなかった。でも毎日体験するうちに、彼の肉体と知性はその異常な世界に順応していった。眩暈と頭痛は甘美なまどろみに変わり、口からひっきりなしに洩れる呻きや呟きは、いつしか歌になった。ひどく怖くて、ひどく不安なのに、意識はどこまでも軽やかで澄み渡っている。まるで踊ってるみたいな気分だな…………そうやって彼は歪む地平線を目指しながら歩き続けていた。