墓地をくぐり抜ける

頭の中で鳴り響く『クープランの墓』、その音符を追いながら、僕は丘の上の墓地に足を踏み入れる。狭い入り口はほとんどケモノ道のようで、人の侵入を拒む雰囲気がある。墓地は妙に広い。山の中の一角を適当に切り拓いてそこに適当に墓石を並べたといった墓地で、いつも人けはなくてひっそりしている。雑木林に囲まれているために日当たりは悪く、曇りの日などに来ると、昼間でも不気味なほど暗い感じがする。今日は午前中に雨が降っていたために、地面のコンクリートを埋め尽くす落ち葉は濡れていて、歩いても足音が立たない。

僕は墓地の真ん中に立ちつくして、何となく上を見上げていた。生い茂る木々の葉が空を覆い隠している。ギーゼキングによる演奏の記憶は、いつしかついえていた。何かの生き物の声が頭の中の音楽をかき消してしまっていた。そうだ、僕はその鳴き声の主の姿を求めて、頭上を見渡していたのだった。おそらく鳥の声だった。聞いたことのない珍しい鳴き声で、それは「キョモフルル・キヨモフルル」といった風に聞こえた。でも鳥などどこにもいない。そもそも動くものの姿が見当たらない。鳴き声はなぜか近づいたり遠のいたりして、僕はそれに合わせて立つ位置を移動したりしていた。しかし姿は見えず、羽ばたきの音も聞こえない。

結局あきらめて墓地を去ることになる。坂を下っていると丘のふもとにある幼稚園の校庭が見えて、そこにあるジャングルジムのてっぺんに、一羽の鴉が止まっていた。鴉は動かずじっとどこか遠くを見つめていた。でもさっきの鳴き声が鴉であるはずはない。似ても似つかない声だったし、その鴉は凍りついたみたいに動かず、一度も鳴かなかった。