部屋の空白

引っ越しの準備を終えると、部屋はがらんとした。部屋のいたるところに、入居した日以来、いちども目にしたことのない部分があらわになった。
彼女はそんな空白を長い時間見つめていた。
これまで何年も、それらの空間は、なにかしらの物体に占められていたのだ。そして明日には彼女はこの部屋を去る。この部屋とも、ここにある空白にも、二度と接する機会はなくなってしまう。そう思うとつい彼女は手を伸ばして触れたくなった。そこにある何もない空間を。
両手を動かしていると、手の平に手触りを感じた。彼女はその表面を撫で、輪郭をなぞった。