球体浮遊コントロール

開いたドアの隙間から、シャボン玉みたいな球体が、隙間を潜り抜ける猫みたいに形をよじらせながら、部屋に入ってきた。母親は驚くどころではなかったが、赤ん坊は笑っていた。赤ん坊はゆりかごに寝そべったまま、球体に触れようとして手を伸ばし、球体は右へ左へふわふわと逃げ回った。そのさまは母親の目に、赤ん坊が腕を動かして、球体をラジコンみたいに操っているようにも見えた。赤ん坊の腕と球体とが、透明な糸でつながっているのではないかと思って、彼女は実際に空間に手をかざしてみたが、もちろん糸などあるはずもない。そして当初の驚きもだんだんしずまっていった。不思議な出来事ではあったが、今まで経験したなかで一番不思議というほどでもない。彼女はこれまで子育ての過程で他にも多くの不思議な体験をしてきた。どうやら赤ん坊という生き物は様々な不思議な現象を呼び寄せるものであるらしい。彼女はそのように考えていた。

しばらくして赤ん坊が眠ってしまうと、球体はしばらくうろうろと空間を漂っていたが、やがてまたドアの隙間から出て行ってしまった。