溶鉱炉 (Blast Furnace)

海沿いの埋立地に広がる製鉄所。巨大な煙突から黒い煙が立ち上って雲を塗りつぶしている。倉庫の中には鉄鉱石が山のように積まれていた。その中に一匹の蟻が紛れ込んでいる。助けて!ここから出して。蟻はそんなことを叫んでいたが、その声は、無数の大多数の鉄鉱石に埋もれて聞こえない。鉄鉱石たちは紛れ込んだ異端者を冷ややかに無視している。

午後、倉庫の天井の扉が重々しく開いた。開いた扉の隙間から、赤黒いパワーショベルが差し込まれ、石の山を突き崩した。そのようにしてすべての鉄鉱石が倉庫から出され、コンベアによってしかるべき場所へと運ばれる。機械によって削られ、砕かれ、みな等しく均一な大きさにされてから、高炉へと入れられた。1500度の高温が鉄鉱石を残らず溶かしてしまう。その中にはあの蟻も含まれていた。でも溶けてしまえばもう、石だろうが蟻だろうが区別はつかない。
オレンジ色のどろどろした銑鉄が、細い湯道を流れていく。そのさまは、さながら火を身にまとった蛇のよう。