雪の降る操車場 (Snowy Rail Yard)

長くとどまっていた貨物列車が、ようやく走り去った。音を立てないようにそろそろと金網を乗り越え、ゆっくりと線路に近づく。そしていつものように、レールに頭を預けて線路と直角に横になった。ひどく寒い夜なのに不思議なほど寒さを感じない。首筋に触れるレールの鉄もそれほど冷たくない。顔をめがけてつぎつぎと雪が降ってきた。目を閉じるとそのまま眠れそうな気がした。雪の降る真夜中、線路の真ん中で、家のベッドにいるよりも心はずっと落ち着いている。きっと安らかな眠りがおとずれるだろうという予感がある。本当にこのまま眠ってしまおうか?それも悪くはない。この場所は操車場の小部屋からは死角になっているし、僕の姿は暗がりに紛れて容易には見つからないはずだ。現にこれまで一度も見つかったことはない。でもそれはただ運がよかっただけかもしれない。もし見つかったらやはり逮捕されるだろうか、でも僕はまだ子供だから、逮捕だけは見逃してもらえるかもしれない。だからといって、ちょっと叱られる程度で帰してもらえるとも思えない。

時計を見ると、いつの間にか20分過ぎていた。その20分の間、自分でも信じがたいことだが、僕は本当に眠っていたらしい。今見たばかりの夢を覚えていた。想像や記憶にしては鮮やか過ぎるから夢だったとしか思えない。夢の中で僕は線路の上を走っていた。電車と同じかそれ以上のスピードでいくつも駅を駆け抜け、見知らぬ土地を通過し、いろんな風景を目にした。爽快で、愉快な夢だった。だからもう少し余韻に浸っていたかったのだが、先ほどまではそう感じなかった寒さは、いつしか耐え難いものになってきていた。僕は両腕で身体を抱くようにして、がたがたと惨めに震えている。少しして、どこかそれほど遠くないところで人の声が聞こえた。その声を聞き、僕はまた目を閉じる。固く目を閉じて、さっきの夢の中に逃げ込もうとする。……