階段

デパートをうろついていると地下へ続く階段を見つけました。私はその階段を降りはじめましたが、するととつぜん背後から声を掛けられ、そっちは立ち入り禁止だとその声は告げます。振り向くとそこにはデパートの職員らしき女性がいました。女はいかにも不審そうな目つきで、僕を見つめています。そうだ、立ち入り禁止の立て札が、誰の目にも明らかに階段の段差に立てられていたのだ。しかし職員の女はやけに美人だったし、そして彼女が、字が読めないのかこの男は、という目つきで睨んでいたために、僕は言い知れぬ反発を覚え、無視して階段を下りました。すると女はさらに大きな声を出しましたが、その後でハイヒールの音が高くフロアに響き、それは僕を追いかけてくる足音ではなく、女はどこかへ人を呼びに行ったらしい。女がいなくなったので、僕はどんどん階段を下ります。階段は思いのほか長く、下りきった先は地下でした。薄暗い細い通路がまっすぐ伸びています。上のほうから足音が聞こえてきたので、僕は急いで歩きはじめました。少し進んだところでドアをみつけたので開くとそこは廃品のようなものがたくさん置かれた倉庫のような部屋があり、とりあえず僕はそこに身を隠すことにした。機械の一部のような得体のしれない部品がたくさんあり、それらはひどく汚れたり、あるいは強い衝撃を受けたように折れ曲がったりしていました。それらのがらくたに隠れるように、部屋の奥の床に、四角い穴が口を開けていました。つまりそれはさらなる地下へと続く階段だったのです。コンクリートの段差がまっすぐ下方へと伸びていて、その先は闇に吸い込まれています。その暗闇は、まるで床下まで浸水した黒い水のようです。

追いかける足音は部屋のすぐ外にまで迫っていました。
彼らが何者なのかは知りませんが、いずれここへ押し寄せてきて、僕を捕えることでしょう。僕は前に進むしかない。この場合の前とは、この階段が導くさらなる地下のことである。僕はそこに何があるのか知らない。きっとろくなものがないだろうという予感があります。この階段を浸す、きわめて嫌な感じのする暗闇を見ると。しかし僕は一歩を踏み出しました。もはや選択の余地はないのです。靴底が硬い段差に触れたとき、足首のあたりに、何か熱のような感触を覚えました。そしてそれと同時に、それまで胸にわだかまっていた逡巡や迷い、恐怖が消え去りました。それは不可解な現象でしたが、この際肯定的に受け止めることにしました。そして僕は自分でも怖ろしいほどの速さで階段を駆け下ります。