炎の中で花開くもの

取り囲みそびえたつ火柱のはるか上空から音が聞こえる。……火がはじける音ではなかった。人の声だった。誰かが歌っている。空を焦がす炎よりさらに高いところで歌う人がいる。女の歌声だった。歌詞は聞き取れない。それは日本語ではなく、どんな国の言語でもないように思われた。歌の一部をあえて表記するなら"eanqo -fshoe- nwokc- sntwlc"といったものになる。でも歌う女は出まかせに声を発しているわけでない。詩に意味はちゃんとあるらしい。そのことは歌い方からわかった。それはひどくそっけない、気のない感じの歌い方だった。もし本当に意味のない詩だったら、むしろいかにも感情を込めたように歌うのではないだろうか。でもそれはもちろん私の推測でしかない。

火は燃え盛っている。逃げる場所はない。私は焼け死のうとしている。なぜか怖くはなかった。熱さも感じなかった。歌のおかげだろうか?……今この瞬間、世界で私だけがその歌声を聞いていた。それはこうして火に包まれない限り聴くことのできない音楽なのだ。私は炎の中でひそかにそのことを確信する。

ずっと後で、私の身体はだんだん高く上へと持ち上げられていったが、それに伴って歌声もまた逃げるように上へと遠ざかってゆき、私が歌う女の姿を見ることは最後までなかった。