陸橋 (Overpass)

陸橋の下にある公園は、サッカーでもできそうなほど広いが、それほど殺風景な場所もなかった。遊具らしきものはひとつもなく、橋が遮って日が差さないためにいつまで経っても干上がることのない水たまりがいくつかある。そしてあちこちに転がる不法投棄のがらくた。パンクした自転車、壊れた小型冷蔵庫、濡れて乾いてかちかちになった漫画雑誌、画面の割れたテレビ、折れたスタンドライト、こたつ……きりがないのでやめるが、通りかかるたびにそうした廃棄物は増えているような気がする。そんな見捨てられた公園の片隅に一人の女がいた。女はがらくたのうちのひとつである脚の折れた椅子に腰かけていた。そしてストローを口にくわえて、シャボン玉を飛ばしていた。
女は明らかに子供ではなく、さほど若くもない。子供を遊ばせている母親なのかとも思ったが、しかしそれらしき子供の姿もない。大人の女が一人でシャボン玉を吹く光景というのはやや異様ではあった。でももちろん責められるようなことではない。誰にだってシャボン玉で遊びたくなることはある。しかしその女は、その遊びを楽しんでいるようには見えなかった。彼女はまるでそこで一人でシャボン玉を吹き続けなければならない、という罰を受けているみたいに見えた。
鉛色の雲が空を覆い、風は冷たかった。午後の公園は静まりかえっている。女はストローをシャボンにつけ、それを吹き、またシャボンにつける、という一連の動作を、一定のリズムでひたすら続けていた。その様子はやはりどこか作業めいていた。
いつになったら彼女は止めるのだろう? たとえシャボンを入れる容器が空になったあとでも女はその動作をえんえん続けそうなそんな雰囲気があった。僕はそのときまで見届けたい気がしたが、でもそれまでにはさらに長い時間がかかりそうだったし、風の冷たさにも耐えられなくなりつつあった。僕はその場を去った。