ある男の日記

一人で洋服屋へ。服を眺めていると、どこからともなく店員がやって来て、それいいですよ、お似合いだと思いますよ、と言った。僕はそのいかにも遊び人風の店員に勧められるがままに、その服を買ってしまった。それは奇妙に派手な服で、家に帰って鏡の前で着てみたところ、当然のことながら自分にはどう考えても似合わなかった。あんなにたくさんあった洋服の中からどうしてわざわざこんなものを買ってしまったのか、自分がそんな判断を下したことが信じられなく思えてくる。しかもこんな失敗は初めてではない。同じような過ちを何度も犯したことがある。いや、これはあのちゃらちゃらした店員のせいではたぶんない。

次の日、僕は新しく採用された会社に出社した。部屋に入ると見たことのない連中がたくさんいて、彼らは同期に入社した社員だった。みな声がよく通り、滑らかな肌をしていて、見るからに優秀そうだった。そして始業時間になった。僕は困惑していた。人に雇われて働くことにただでさえひどく慣れていないので、何をすればいいのか、どんな風にふるまうべきなのかがまるでわからないのだった。正直なところ適切な声の出し方さえわからない始末だった。一方で同期の同僚たちは、迷う様子など少しも見せずにすでにてきぱきと仕事をこなしている。僕はなすすべもなく一人で立ち尽くしながら、何となく身体を動かしたい気分でいた。たとえば大きな岩を押して別の場所に移動させるだけ、といった単純で、無意味な仕事でも、これよりはましだという感じがする。