納屋の入り口の戸は記憶にある限り一度も開けたことのないただの戸です。僕がそれを開けないのは無意味だからです。納屋は古く、壁はほとんど崩れていて、だから僕がいつも納屋に出入りするときには、その壁に開いた穴をくぐるのです。そっちのほうが早いし楽なので、わざわざ戸を開け閉めする理由がないのです。(そして私はめったに納屋に用などない)
つまりその戸は役割を失った可哀想な戸なのです。
ある日何となく思い立ち、その戸を開こうとしました。取っ手に手をかけて力を込めましたが、戸はびくともしません。無理もないことです。納屋は大変古いもので、僕が生まれる以前からこの家に何十年もあったものです。使われないうちに、建付けが悪くなり滑りも悪くなって、もはや二度と開くことはないのでしょう。
戸は死んでしまいました。結局僕は最後まで一度もそこをくぐらないままだった。その取っ手に手を触れるのも、今日が最後になることだろう!
私はためしにとっておきの呪文を唱えてみました。しかしやはり戸は開かなかった。