電車に乗って遠くへ

とにかくイライラしていたので、旅に出ようと思った。するとその次の瞬間には、僕は電車の座席に座っていた。駅に行って乗車券を購入したり改札をくぐったりした記憶がない。考えてみれば怖ろしいことだが、気にしないことにした。窓の外の景色はすでに見慣れない土地だった。座って目を閉じていると、夢をみていた。夢の中で、僕は知らない男と一緒に長い一本道を歩いている。夢の中の僕はその男と別れることを嫌がっている。何か非常な危機がすぐそばまで迫っていて、一人になることを恐れているのだ。しかし男は何も言わずに去ってしまい、僕は一人になった。巨大な危機はすぐそこにまで迫っている。夢の中の僕はおびえて震えている。しかし何か重大なことが起こる前に、僕は突然目が覚めて夢から覚めてしまい、電車はどこかの駅に停車して、ちょうどドアが開くところだった。僕はほとんど衝動的に立ち上がり、ホームに降りた。そこは見知らぬ土地の見知らぬ駅であり、降りた乗客は僕一人きりで、僕はどうしようもなく途方に暮れた気分になって、電車に戻ろうかと思ったが、電車のドアはすぐに閉じて走り去ってしまった。

駅舎はまるっきりの無人で、駅を出て少し歩いてみたが、山と田んぼしかないような土地で、行きたいところもないし、やるべきことも何も思い浮かばず、しかし天気だけはやたらに良くて暑くて仕方ないので、結局すぐに駅に戻り、駅舎のベンチに座ってじっとしていた。日差しからは逃れられたものの、蒸し暑いし風もまるで吹かないので汗が止まらない。その上何か、言い知れぬ嫌な予感のようなものが心をざわつかせていた。これからどうすればいいのだろう。電車を待ってそれに乗って帰るか、それとも……いや、もう何も思いつかない。

しばらくぼんやりしていた。踏切は一度も鳴らず、電車はとうぶんやってきそうにない。そのうちに、一人の男が駅に入ってきた。どこにでもいる害のなさそうな老人だったが、その男はいくつかあるベンチの中から、わざわざ僕のすぐ隣の席を選んで座った。僕は何となく窮屈な感じを覚え、そしてさっきの夢の続きを見ている気分になった。