無人島のフクロウ

もう何もかもに嫌気がさしたのでボートで海を漂流する生活をはじめた。しかし僕には航海の経験も知識もなく、そのうえまるっきり海を舐めきって見くびっていたので、すぐにちょっとした嵐に見舞われてボートは転覆して難破した。荷物にしがみついて海を漂っていると、近くを奇妙な巨大な船が通りかかり、甲板から船員らしき人物が顔を出した。その人物が縄梯子を投げてくれたので、僕はそれをよじ登って船に上がった。そして救助されたのだった。
その船にいたときの記憶はひどくおぼろげである。船内を歩き回ったりした記憶はない。僕は救護室のようなところでずっと寝かされていた。いろんな人が僕の顔を覗き込んだ。彼らは何か僕に語り掛けたが、僕にはその言葉がわからなかった。僕は相当に衰弱し消耗していた。
そうやって何日かが過ぎた。次に覚えている情景は、船の甲板からの景色である。そのとき船はどこかの島のすぐ近くを航行していた。海岸線が美しい弧を描き、南方の日差しが海や砂をきらきらと照らしていた。その光景は奇妙なまでに明るいさわやかな印象を残した。
そのあと僕は、背後から誰かに身体を抱えあげられ、海に投げ込まれた。そのとき僕が感じていたのは驚きや当惑ではなかった。怒りでも混乱でもなかったように思う。つまりこういうことは起こりうるし、ほとんど必然だ、と思った。彼らが僕を船から放り出すのはとくに不自然ではない。間違ったことでもない。彼らにも事情があるのだ。何らかの理由で、彼らは僕を彼らの目的地へ連れて帰ることができなかったのだろう。だから手ごろな島を見つけ、その近辺の海に僕を放り投げることにしたのだ。
そう考えることにした。

泳いで島にたどり着いた。それほど大きな島ではなかった。人の姿はなく、建物もない。島の中央には森が生い茂っていて、そこからいろんな鳥の鳴き声が聞こえた。
海岸に沿って、島を一周してみた。人はどこにもいない。いわゆる無人島だった。小さな丘があり、その崖の岩肌に裂け目があった。中は思いのほか広い洞窟になっていて、そこにいれば風雨をしのげそうなので、とりあえずの棲家にすることにした。
すこし休んだ後で食べ物を探しに行った。海岸を歩いていると魚や貝殻が見つかった。森にも入ってみたが、草木が深々と生い茂っていて、まともに歩くこともできない。ある木の枝の上に、全身を白い毛でおおわれた、金色の瞳をしたフクロウに似た鳥がとまっていた。それは唖然としてしまうほど美しく、僕は一瞬夢をみている気がした。近づいても鳥は飛び立たずにそこにじっとしていた。まるで作り物のようだったが、ときどき翼や首が動いていたし、金色の瞳は生き生きときらめいていた。僕はこの島で生きていけそうな気がした。不思議なものだった、死にたくなって漂流をはじめたのに、こんな世界の果てみたいな場所で、生きようとしているなんて。