人肉スーパー

『人肉スーパー』と看板には表記されていたが人肉を売るスーパーマーケットという意味ではなく、名前の由来は創業者の苗字であるらしい。店員がそう教えてくれた。同じ質問を何度もされているらしくその説明はきわめて簡潔で無駄のないものだった。それでも僕はお肉コーナーに行って肉を一つ一つ確かめずにはいられなかった。おそらく誰もが同じことを考えるのだろう。お肉コーナーはにぎわっていた。そこで販売されていたのは確かに人肉ではなかった。どう見ても何の変哲もない、他のどこのスーパーでも見かけるありふれた食肉ばかりだった。もっとも僕は切り落とされた人肉がどんな色や質感をしているのか知らないので、ちょっと見ただけでは他の肉と区別がつかない。意外なことに人肉スーパーでは、肉はずいぶんよく売れているらしい。こんな名前のスーパーで売られる肉がどんな味をしているのか確かめてみたい、という心理が働くのかもしれない。それとも単に安いからだろうか?確かに価格は近所のどの店よりも安かった。それで僕もお肉を4パックも買ってしまった。

数日かけて僕はそれらの肉を全部平らげた。正直に言ってどれもおいしかった。味にも変なところはなかった。そのことを確かめた僕は、がっかりするやら安堵するやら変な気分だった。あらためてよく考えてみると、人肉などという苗字が存在するはずがないのだ。一応インターネットで検索してみたがそんな名字の人名は一人として見つからなかった。一件もヒットしなかった。スーパーの創業者であるなら、何かしらの情報がウェッブ上に見つかってもよさそうなものなのに。ということは奴らは嘘をついていたのだ。でもなぜそんな嘘を?そして嘘なのだとしたら、本当の由来は何なのか。いずれにしても、僕はまたあの店に行くだろう。そして肉を買うだろう。あんなに安くておいしいお肉はない。