君はヘヴィ・メタル

初めて会ったとき、君は大きな鞄を提げていましたね。がっちりとしても頑丈そうな、手榴弾でも入っていそうなその鞄は、君の服装やたたずまいに、まるで不似合いだった。正直なところ、あのとき、僕は君に対するよりも、その鞄に対する関心のほうが大きかった。君といえば美しくもなければ愛嬌があるわけでもなく、肉体的な魅力にも乏しく、正直なところ僕はあの日君と隣り合わせの席になって、わが身の不運を嘆いたものだった。でも君の鞄のことは、最初に顔を合わせたときからずっと気になっていたのだ。その堅牢な鞄に、君が一体何を入れて持ち歩いているのか知りたかった。知りたくて仕方がなかった。でも初対面の女性にいきなり鞄の中身のことを尋ねるわけにもいかない。それで僕は君に、この鞄は何でできているの、と尋ねたのだった。どうしてそんな質問をしたのだろう。素材なんて見ればわかるのにね。君の鞄はおそらく、ジュラルミンとか、アルミとか、そうしたもので造られていた。だから僕もそういう答えを予期していたはずだった。いや、あるいは何も予期などしていなかったような気もする。とにかく君が口にした返答は、僕にとって全く意外なものだった。
ヘヴィ・メタル」と君は答えたのだった。穏やかな、そしてクールな声で。今でも僕は君のその声を思い出せる。そして僕はしばらく口がきけなかった。ヘヴィ・メタル、すなわち重金属。鉄とか鉛とか、そうした金属のことだ。そんな素材で作られた鞄は、ないわけではないらしい。たとえば鉄製の鞄は実在する(それはあとで調べた。)でもそのときの僕は、実際に君の鞄が何でできているかなんてことは、もうどうでもよかった。とにかく大事なのは、その一言によって、僕の君に対する印象は一変した。僕自身にも理解できない理不尽で不可解な心の働きによって、君は僕の目に突然輝いて映るようになったのだった。つまり僕は君に夢中になってしまっていた。

あれは単なる君の冗談だったのか、あるいは僕の質問を聞き間違えて、的外れな答えをしたのだろうか。あとになっていろんなことを考えたけれども、すでに手遅れだった。僕は君と親しくなることを望んだのだし、実際にそうなった。僕は君について多くのことを知った。まさしく君はヘヴィ・メタルだった。ヘヴィ・メタル的な女性だった、あらゆる点において。その印象は今も変わらない。でも鞄の中身のことだけは、結局教えてもらえずじまいだったね。