雷、セイウチ

夜空に閃光が走るその一瞬にだけ、部屋の中は昼間みたいに明るくなる。そして光に続いて届くあの轟音、少年は窓から外を眺めながら、胸の高鳴りを覚えていた。この興奮と、音のために、すぐには眠れないだろうと思っていたのに、実際にはそのあとベッドに入ると、少年はすぐに眠り込んでしまった。

翌朝、雨は止んでいたが、まだ雷鳴はときどき響いていた。朝食を終えると、少年は家のそばの海岸にでかけた。砂浜を散歩していると、地面に大きな穴が開いているのを見つけた。直径1メートルほどで、深さはそれほどなく、まるで超小型の隕石か何かが墜落した跡みたいな穴だった。その穴の底に、何か小さなものが転がっているのを見つけた。少年は穴の中に降りてそれを拾い上げた。それは何かの生き物をかたどった像だった。手のひらに収まるサイズで、まるでフィギュア人形みたいだったが、素材が明らかに違っている。少年にはそれが何で作られているのかわからなかった。そしてその小像は、少年が見たこともない生き物の形をしていた。ぱっと見たところ、それはセイウチに似ている。むっくり肥っていて頭が丸く、口からは長い牙が二本飛び出している。でもそれ以外の部分がまるで違っている。楕円形の目は嫌に大きく、目尻が垂れ下がっているし、何より脚が多すぎた。そして脚が長すぎた。太い長い脚が、数えてみると10本もあるのだった。つまりそれは得体のしれない未知の怪物の彫像だった。しかし出来栄えは精巧で、嫌になるほどリアルだった。地球のどこかに、本当にこんな生き物が生きているのではないかと、信じてしまいそうになる。少年はその小像を眺めまわし、ときどき撫でたりしながら、すっかりそれを気に入ってしまっていた。彼はそれをポケットにしまった。

遠くでまだ雷鳴がゴロゴロと鳴る。それは唸り声のようだった。灰色の雲の裏側に、この小像にそっくりな姿の怪物が隠れていて、それが声を発しているのかもしれない。少年はそんな空想をしながら家に帰った。