海辺の猫のナミ

海を臨む大きな窓がある部屋は、家の中でいちばんよく波の音が聞こえる。猫のナミはその部屋がお気に入りだった。いつも窓辺で日向ぼっこしながら波の音に耳を澄ませるみたいにじっとしている。家族の人たちはそのことを面白がった。ナミは波っていう名前だけあって波の音が好きなんだね。ところで猫のナミは、晴れた昼の海を思わせる色をした青い美しい瞳をもっている。

波の音を聞く猫の姿を家の主人が絵に描こうとした。そのたびに猫はするりと起き上がってどこかへ逃げてしまう。猫のナミは猫らしく気まぐれだったので、なかなかおとなしくモデルを務めようとはしなかった。それでも主人は苦労して、なんとか一枚の絵を完成させた。その絵は猫のナミのお気に入り部屋の壁にかけられている。
ナミはもちろん、絵には見向きもしない。ただその絵に描かれているのと全く同じポーズで、毎日窓際の日なたにしゃがんで、ごろごろしている。