古い波乗りの記録

海辺の寂れたレストランでハンバーガーを食べた後、椅子に座って海を眺めながらぼうっとしていると、店主が寄って来て、話しかけてきた。
「あんたはもしかして、フミオの家族じゃないか。
その名前に聞き覚えはない。僕は否定した。店主は微笑み、悪いね、と言った。
「とてもよく似ていたから。あんたが店に入ってきたとき、あいつが帰ってきたのかと思った。
店主は壁に掛かった一枚の写真を示した。一人のサーファーが映っていた。壁のようにそびえる高い波の頂点で、サーフボードに乗った青年は笑みを浮かべている。顔だちから察するに、日本人か日系人であるようだった。確かに僕に似ていた。でももちろん僕ではないし、僕の親族でもない。僕の家系はハワイとは何のかかわりもない。
その人とは親しかったのですか。
「いつもここで昼食を食べてたんだよ。毎日のように海に来てた。でもある日から来なくなったんだ。
店主は窓の外を見て、目を細めるような表情をした。
「その日も、あいつは海にいたんだよ。朝早くから、波に乗ってた。でも昼になっても店にやってこなかった。それ以来、二度と現れない。どこへ行ったのか誰も知らないんだ。
窓の外の太平洋は、ひたすら穏やかに波を繰り返し、その上をクジラのような雲がゆっくりと移動してゆく。明るすぎる日差しのせいか、水平線は見つめていると揺れたり歪んだりした。
「ずいぶん昔の話だからね、きっともう生きちゃいないさ。
僕は言うべきことを思いつかず、店主も長く黙り込んでいた。