今夜は風が強いから、戸が大きな音を立てて閉まるようなバタンバタンという音がどこからかひっきりなしに聞こえていて、そのせいで眠れず僕はいらいらしていた。アパートの各部屋のドアの隣にはガスメーターのボックスがあるのだが、そのボックスのドアの鍵が外れて、開いたり閉じたりして音を立てているのだろう、と僕は考えていた。その戸を閉めに行こうかと思ったが、あまりにも寒いので布団から出たくない。何とか眠ろうと目を閉じていたが、時計が午前2時を過ぎたとき、僕はついにベッドから降りた。そしてありったけの防寒具を身に着けて部屋の外に出た。

外では冷たい風が吹き、雪まで降っていた。なぜか僕は不思議と寒さを感じなかった。身体の内部がひどく熱を持っていたのだ、おそらくは眠りを邪魔された怒りと、苛立ちのために。アパートのほかの住人たちは、あの音に対してなんとも思わないのだろうか? それともあいつらは(機嫌が悪いせいで言葉が荒くなっている)今夜に限ってみんなどこかへ外出しているとでもいうのか。あるいは音など少しも気にせず眠ることのできるほどずぶとい連中なのか。

ざっと見て回ったところ、僕の部屋がある階にあるガスボックスのドアは、どれも閉まっていた。他の階も調べてまわったのだが、非常に奇妙なことに、どの階のどのガス扉も、ちゃんと閉まっていた。そして僕がその調査を行う間にも、バタンバタンという音はずっと聞こえていた。ということは僕の見当は誤っていたらしい。あの音はガスボックスのドアが開閉する音ではなかったのだ。
それならいったいこの音は何なのか。どこから聞こえるのか? 僕はアパートの外に出て、近所をうろついてみた。音はやはり、間違いなく僕のアパートのほうから発していた。なすすべを失くした僕は、深夜の駐車場に立ってアパートを見上げる。そこからは各部屋の窓が見渡せる。どの窓も明かりが消えて暗くなっていた。やはり住人たちはみな音など気にもせずに眠りこけているらしい。そう思うと嫉妬に似た気分が沸き起こり、また自分が置かれた状況の惨めさを思って悲しくなった。僕はといえば南極探検みたいな厚着をして、いらいらしながら深夜に外をうろついている。

風は強く、かぶったフードの中にまで雪が吹き込んできた。僕は立ち尽くして長い間暗い窓を見上げていた。今夜はもう再び眠ることはできないだろうと思った。