改札口の女

駅の改札の手前に、畳が4枚並べられていて、そこに一人の女が座っていた。長いスカートを広げて、背筋を伸ばして正座していた。
改札を通り抜ける人たちは迷惑そうにしていた。そんなところに畳があるせいで、2つか3つぶんの改札口が塞がれ、駅の混雑はひどくなっているのだ。怒声を浴びせる人もいる。駅員もしきりに注意している。女はすべてを無視していた。どこか一点を見つめたまま、口をとがらせて黙っていた。その表情は不機嫌そうだった。本当に不機嫌だったのかもしれない。
おそらく彼女は自ら望んでそこにそうしていたわけではないのだ。彼女もまた腹を立てていたし、悲しそうでもあった。彼女は何らかの力によって4枚の畳とともに駅の改札口に固定されてしまったのだ。そしてそこから動くことができない。彼女は運命に抵抗できないのだ。彼女はひたすら耐えている。なぜ自分がここにこうしているかについて、弁解や説明をしたいのに、それができないでいる。
そういうことはすべて僕の想像である。でも女はそんな風に見えた。改札口に固定されて、離れることができない。そんな人通りの多い場所で、朝のラッシュを遮るように、完全に邪魔するように。そんな役回りは嫌われるに決まっている。実際に通り過ぎる人々はみな女を憎んでいた。
でも人はいずれみなふさわしい場所に固定される運命にある。女の場合はそれが駅の改札口だった。