雨のラビリンス

デパートの屋上には迷路アトラクションがある。そこはいつも日曜日などには子供たちでにぎわっているのだが、今は平日の午前中であり、しかも結構な強さで雨が降っていつためか、人けはなかった。僕はひとりでその迷路に入った。迷路といってもそれほど複雑なものでもないし、これまで何度も遊んだことがあるので、順路はみんな記憶していた。でも大雨の日に遊ぶのは初めてだったので、それだけは少し新鮮だった。

その日、僕は何度となくわざと道に迷った。永遠にここから出られないのでは⁈という絶望感を味わってみたかったのかもしれない。デパートの屋上でそういう気分に襲われるのは、きっと面白いだろうと思った。正しい順路を選ばず、正解を無視し続ける。曲がり角や十字路に出くわすたびに、わざと間違ったルートを選ぶ。だからどれだけ歩いても当然出口にはたどり着けない。

……そうして6時間が経過した。迷路は今や、手に負えない巨大な迷宮へと変貌していた。僕はもうあえて不正解の選択肢を取る必要もなくなっていた。どの道を選択してもなぜか僕はちゃんと迷っていた。まるで迷路は膨張しているかのようだった。ルートは救い難く複雑になっていて、難易度をひどく増していた。僕はすでに出口の存在を信じられなくなりかけてさえいた。それはどこか次元のはざまのような場所に呑み込まれてしまったのに違いない。きっと僕は永遠にこの迷路から脱出できない。死ぬまでこうしてえんえんと迷い続けることになる。それを思うと怖いが、でも迷宮とはそういうものだし、そうでなくては迷宮の意味がない。雨は降り続けていた。

ある地点で僕は足を止めた。そこは見知らぬ場所だった。少なくともデパートの屋上では絶対になかった。雨はまだ降っていて、やむ気配もない。ここから僕はどこへ向かえばいいのだろう。もはや道らしい道は近くにない。