森の小さな滝

訪れた家の庭には滝があった。池が二つの層に別れていて、上の池から下の池に水が流れるようになっている。その家の主人は、庭に滝を作るのが若いころからのの夢だったのだと言った。それを成しえた今、もう人生に思い残すことはない。彼の口調は真剣だった。

僕は考えてみれば人生で一度も滝を見たことがない。つまり名前がつくような有名な滝は。僕が唯一見たことがあるのは、とある森の奥にあった小さな滝である。降り続いた雨によって生じた一時的な滝だった。水は日差しを浴びながらさらさらと柔らかい音を立ててすぐ下の川に注ぎ込んでいた。
その滝がまるで自分だけに贈られた宝物みたいに思えて、その場所からなかなか離れられなかったことを覚えている。