水滴

ベッドに横になり目を閉じるとどこからか水が滴る音が聞こえてくる。その音に耳を澄ませているとすんなり眠れることに気づいた。だからその音は僕にとって良い音だったのだが、今夜ははぜか、やけにその音が気になってしまう。本当にどこかで水が滴っている気がしてならない。それで僕はベッドから出て、家のあちこちを調べて回った。キッチン、浴室、洗面所、トイレ、どの蛇口からも、水は垂れていない。もし本当に蛇口から水が滴っていたのだとしても、その音が二階の寝室まで届くとは思えない。それでも念のため、すべての蛇口を固く締めなおした。

もしかしたら音は家の中ではなく外で起こっているのかもしれない。たとえば雨が降って、雨どいから水が垂れているとか。僕は窓を開けてみたが、外は晴れ渡っていた。星々は明るく瞬き、月がこうこうと輝いている。外に手をかざしたり、外壁や雨どいに触れてみたりしたが、指先は濡れなかった。何もかも、嫌になるほど乾いていた。

あきらめてベッドに戻る。するとまた耳元で音が鳴る。今夜、音はどこか普段と違って聞こえた。ただの水音ではない。水よりずっと粘り気があって重い液体が一塊ずつ落ちるような、びちゃっ、びちゃっと、という音だった。頭の中ではそんな液体が大きな浴槽のようなものの中に溜まっていく光景が繰り広げられていた。液体はその箱からもうほとんどあふれそうになっている。液体は錆びた鉄を思わせる赤黒い色をしている。その液体が何なのか、僕にわかるはずもなかった。