壁を見つめていました。壁は影によって斜めに分断されていました。やがてのっぺりしたその白い表面に、虹色の模様が描き出されました。模様は壁の全体を覆いながら、まるで逆流する流砂のように、床から上へ向かって流れる動きを作り出しています。私はベッドに寝そべったまま、その美しく不思議な眺めに、目を奪われました。かねてから僕はそんな風に、壁の上に様々な幻想を見出してきたのです。
ところでさっきから、部屋の外からしきりに声や物音が聞こえています。複数の人間がいるようです。彼らは私をこの部屋から助け出そうとしているらしい。物音や気配から、私はそのことを感じ取ります。私は彼らに、自分が大丈夫であることを伝えたいと思いましたが、その手段がありません。私は仰向けの態勢のまま、身体を動かすこともできず、声すら出せないのです。まるで肉体が植物状態にあるかのようです。
しかし私には不安も苦痛もなかった。身体は動かず、不自由ですが、そのこともなんとも思いません。私はごく自然な状態にいると思っています。精神的に何も不足はなく、むしろいつもよりずっと深く落ち着き、そして満ち足りています。部屋に一人でいて、天井へ吸い上げられる虹色の色彩を眺めることに、静かな喜びを覚えています。私は誰の生活もこのように穏やかでカラフルなものであってほしいと望みました。
だから私を助け出そうとする人々は、私をこの部屋から引きはがそうとする存在であり、つまりは敵ということになる。奴らは私から安寧と充足を奪おうとしているのです!私は彼らを敵だと認めました。そして誰もが敵と認めた相手に対してそうするように、私は彼らを憎みました。いえ、正確に言えば、憎もうと試みました。しかし私の心は憎しみという感情を正確に呼び覚ますことができない。彼らを憎もう、と私は思いましたが、ただそれだけで、そこに感情は付随しませんでした。なぜなら前述のとおり、私は深く満たされていたからです。満足しつつ同時に憎むことはできない。
奴らはしかしいずれこの部屋へ侵入する手段を見つけるだろう。私はそのことを漠然と予感する。音がだんだん大きくなっているからです。そして間もなくして人の足音がすぐ近くで聞こえた。私は目を閉じました。そのまま眠ってしまったようです。