風に蝕まれた街

壁という壁が灰色に変色している。風化のためだろうか、それとももともとそんな色だったのだろうか。とにかくこの無人の都市は色を失っている。私は思わずにいられない、かつてどんな種類の人々がここに暮らしていたのか、土地を案内してくれた付添人が、街に入ろうとする私を、あれほどしつこく制止しようとした理由とは何だったのか。彼は一方的に契約を打ち切って逃げるように去ってしまった。

私は一人で街に立ち入った。歩いても歩いても目に入るのは色褪せた壁と地面ばかリ。異常なほど植物の少ない土地だった。ときどき道端に忘れ去られたように干からびてしなびている枯れた雑草のほかには、樹木も花もみあたらない。だいたい色を持つものが何もない。建物も道路もすべてが灰色かそれに近い色をしていた。色彩を持つものを意図的に排除したかのようだ。
私は誰ともすれ違わなかった。かつて本当にここに人間が暮らしていたことはあるのだろうか。こんな灰色の街に?………

私もまた、まるでこの無色の景色が体内にまで染み入ったかのように、奇妙なほど虚ろな気分でいた。何の感慨も感興も覚えず、ただ風に吹かれながら歩き続けていた。
風、そう、それだけがそこにある唯一のものだった。茫漠としただだっ広い大通りにも、不吉なほど狭い路地にも、必ず風が吹いていた。それは蛇のように私の首筋を這い手首に絡みついた。その不快な風に導かれていたのか、あるいは逃れようとしていたのか、いつしか私は、街を一望のもとに見下ろす高い丘の頂上にいた。石畳に覆われた広場のような場所で、やはり人の姿はなく、そしてひときわ強い風が吹いている。
私は景色を見下ろす。地表を埋め尽くす連なる建物群の、その頂点の部分が綺麗に揃って一本の直線のようになって見え、その線は彼方の地平線とぴったり重なっていた。絵のように不自然で非現実的な眺めだった。空はやはり絵の具でむらなく塗りつぶしたみたいにどの部分も薄い灰色だった。